「看護師は足りていた」との新事実が裁判所に提出される
6月30日、吉田晃元院長の詐欺事件、水谷信子元事務長の健康保険法違反・詐欺事件について、現在裁判が行われている最高裁判所第二小法廷に対してて「上告趣意書」が弁護士から提出された。今回、上告趣意書のコピーを入手することができたので、以下、69ページに渡る全文を公開する。(個人情報を考慮し、吉田、水谷両被告以外の実名はアルファベットに置き換え、裁判と直接関係のない人物に関してはブランクとした)
静和病院事件 吉田晃 水谷信子 上告趣意書 平成23年6月30日
この上告書では、「静和病院では看護師は足りていた、または病棟の配置が偏っていたために、病院全体の看護師数は基準を満たしていた」という新たな事実が証拠を元に明らかになっている。「看護師が足りていた」という事実は、裁判で検察側が主張してきたこの事件の根本を突き崩してしまうものである。なぜなら、検察の描いていたこの事件の骨格は、吉田、水谷両被告が、看護師配置の新基準に照らして、看護師がこの基準を満たしていない事を承知し、診療報酬制度や施設基準を知り尽くした上で、あたかも基準を満たしているかのように偽装し、虚偽の届出によって診療報酬を詐取したというものであった。
ところが、事実は違っていた。看護師数は足りていたのである。現場のA総婦長も、医事課のB主任も事実を全く誤解していた。つまり、静和病院では、現場のA総婦長も、医療事務の責任者であった医事課B主任も、施設基準を正しく理解していなかったのである。まして、現場に任せきりだった吉田・水谷両被告が、細かな施設基準や新療報酬制度について、理解があった事は考えられない。病院経営においては、驚くべきデタラメぶりというか、いい加減さであるが、静和病院においては、そうした事態がまかり通っていたのだ。
詐欺とは、その仕組みを知り尽くした上で「悪知恵」をめぐらして行われるものであるが、今回の静和病院事件では、その首謀者とされた吉田元院長、水谷元事務長、実行犯とされたA総婦長、B医事課主任、C総務課課長、そのいずれもが、診療報酬制度や新しい施設基準を理解しておらず、病院の看護師が基準を満たしているか否かという基本すら正しく把握できていなかった事になる。事件の最初の前提が崩れてしまったのだ。
事件の前提が崩れた以上、この裁判での検察側の主張の組み立ては、ドミノ倒しのように辻褄が合わなくなってしまう。今回提出された「上告趣意書」では、このサイトでも取り上げてきた数々の矛盾、一方的な検証について、一つ一つ証拠をあげながら再反論を行っている。
「上告趣意書」は、9回裏の2アウト2ストライクでの反論である。果たして、事件の前提を覆す新事実の提示を最高裁判所が取り上げるかどうか。地方裁判所、高等裁判所と2度の裁判を経て、吉田、水谷両被告の圧倒的不利の状況の中、この裁判が振り出しに戻るかどうか、今後の展開から目が離せなくなってきた。